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私はね、もう66年も働いているんです。
年齢ではないんですよ。
14歳の時から、同じ仕事を66年も続けているんですよ。
そして、まだまだ続けたいんです。
少し前に藍綬褒章までいただいてしまいました。
ほんとうにありがたいことです。
しゃきっとしたお姿、輝く瞳に筆者は惹きつけられた。
東京生まれの私は当時、旧制の中学生でした。
1945年5月、関東大空襲に襲われました。
仲間の、おそらく三分の二は亡くなりました。
今でも、命日にはお参りに行きますが、残されたはずの昔の仲間にも会うことはありません。
手を合わせて、冥福を祈るだけです。
私の疎開先は静岡県の掛川ということろでした。
そこに軍の工場があり、そこで私の建具師、指物師としての仕事が始まりました。
以来、「木」に向かう私の人生は66年に及ぶのです。
指物とは、釘などを全く使わずに作った家具などのこと。
木と木を巧妙に継ぎ、その組み手を見せない技術はまさに芸術。
江戸指物師は見えないところに力を注ぐのが「粋」なんですと目を細めた。
4年前に、昔からの工場を移転。
少し、仕事を縮小しようと思ったのですが。
どうしても、仕事がしたくて。
また、再開しています。
大好きな木ですが、ほんとうに木は奥が深いんです。
とてもとても、まだまだ修行が足りないと思っています。
材木の表面を「顔」といいますが。
美しい顔が、いっぱいあります。
世の中に1つとして同じ木はないんです。
そんな美しい顔に手を入れてあげると。
立派な作品に生まれ変わります。
まるで生き物のようです。
特に、苦労して育ったなあと思う木は、ものすごく美しい。
あまりに美しくて、道具で痛めつけたくない気持ちにも襲われます。
ときに、女房よりもいとおしく感じるときがあります。
ほおずりしたくなります。
やんちゃ者の木もあります。
何か逆らって生きてきたような「悪」の顔もあります。
しかし、そういう木でも。
だましだまし、少し時間をかけて手を入れてあげると。
なんとも、とっても魅力的な者に大変身することがあります。
やりがいがありますね。
気に入った木に出会って。
もう30年も40年も大事に抱えている木もあります。
時間を掛けて乾燥させたりしているのです。
弟子も6人ほど育てました。
今は建具の利用が減ってきているのですが。
和風の行灯(あんどん)や花入れ、座椅子などが喜ばれています。
お話を聞く中、筆者は、飯田さんの左手中指と人差し指がないのに気が付いた。
あ、落とされたのですか。
思わず聞いた。
そうそう43歳の時でした。
大きな電動の丸鋸に指を入れてしまった。
瞬間に二本の指が吹っ飛びました。
薬指も半分くらい切れていました。
自分の不注意だったから、泣き言はいいません。
病院に行きましたら、同じように指を落とした小さな子がいました。
ああ、まだ小さくて可愛そうに、と言いましたら。
かわいそうなのはあなただ、と医者に言われました。
小さい子はすぐに慣れる。
あなたは慣れるのにかなりの時間がかかる、と。
それに私は、手が命の指物師でした。
「私が親方の片腕になります」
弟子が、そう言ってくれました。
痛さよりも、そちらに涙がでました。
幸い、私は右利きでした。
以来、わざと左手を酷使するように鍛錬を続けました。
今は何の不自由も感じません。